ツァイユワンペイって誰なのだろう? |
今回の大震災を「予言」したとして有名な松原照子さんの
本日5月26日の<世見>に
「ツァイユワンペイって誰なのだろう?
それと、何処の国の人なのだろう 中国?
分からない」
と記されたのでグーグルで索引される方が多いようです。
以前は、「趙紫陽」について記されたのでコメント欄に誰であるか書いておきました。
しかし今ではコメント欄が閉じられているので、しかたなくこちらに少しばかりの解説をすることにします。
ツァイユワンペイ、とは
蔡元培
のことです。シナ語読みでは、Cai Yuan-Pei となります。
Wikipediaの解説でほぼおわかりになるとは思いますが、いくつかの重要なポイントをあげておきませう。
1)彼は紹興酒で有名な浙江省紹興市出身です。つまり魯迅と同郷です。
今でこそ魯迅のほうが有名ですが、当時はまったく逆で、魯迅は蔡が設立した浙江省の秘密結社・革命団体「光復会」のメンバーでした。つまり蔡は魯迅のボスだったのです。
その引きがあって、のち魯迅となる周樹人は、辛亥革命後の北京政府の教育部(文部省)に就職でき北京へ移住したのでした。
2)孫文の「中国国民党」の源流の一つが「光復会」でした。ゆえに蔡は国民党の重鎮の一人なのです。
蔡は、清朝の科挙に合格した立派な文人学者官僚でしたが、革命を志しそのためには教育が最も大切であるとのポリシーをもった人物でした。そのあたりも魯迅への甚大な影響がありそうです。
辛亥革命により成立した革命政府の教育部を総括する初代総長の地位につきました。しかし袁世凱が皇帝になりたい野望をむき出しにすると嫌気が指し、もう中年となってはいましたが独仏へ留学にでたのでした。
3)1916年帰国後、初代の北京大学学長に就任し、陳独秀、李大釗、魯迅などの知識人を教授陣に招聘しました。これが1919年のいわゆる「五四運動」の火種となったのです。これゆえ、現在の北京大学にも蔡元培の銅像があるのです。
その運動時のスローガンの一つが「賽先生与德先生救中国」でした。科学(Science) を「賽先生(ミスターサイエンス)」、民主(Democracy) を「德先生(ミスターデモクラシー)」とシナ風にもじって、科学と民主こそ「中国」を救う、と訴えたのでした。
しかしその後のシナ革命は、古代から繰り返された農民反乱による「革命」に終始し、あのとき希求された科学と民主は実現されず、1989年の「天安門事件」の際に再度学生たちがこのスローガンを持ち出すという笑えないゲンジツがあったのです。
4)蔡元培は、その後の国民党が中共との権力闘争のためファッショ化するとその指導部からは距離を置くようになります。
そして、孫文未亡人で中共秘密党員であった宋慶齢や、中共シンパだった魯迅らとともに「中国民権保障同盟」を1932年にたちあげます。
(左から、アグネス・スメドレー、バーナード・ショウ、宋慶齢、蔡元培、その後ろは米国人作家アイザックス、林語堂、魯迅。1933年の「中国民権保障同盟」によるショウ歓迎会で)
しかし蒋介石指導部は、これら党内で人望のある元老たちをどうすることもできませんでした。
5) 科学、民主、教育、人権
これらのキーワードでくくると、なぜ蔡元培いま注目されるのかおわかりになると思います。
シナが国民国家をめざしながらけっきょく古代式の中央集権国家権力しかもてず、いまだ普請中である現在、シナ「国民」が希求しているのが100年前と同じ
科学、民主、教育、人権
であるからなのです。
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最後に、松原照子さんのいわれる
「ツァイユワンペイ」って云われる人がいて、その人を凄く尊敬している人達が今度、大きく動く」
という、その人たちとは誰なのだろうか?
わたしの考えで結論づけてしまえば、洪門会である、といえるだろう。
上に述べたように、蔡元培は秘密結社をたちあげた人物である。そしてそこには多量の洪門会系統の裏社会(黒社会)の人々がいた。いやむしろ「光復会」は洪門会系の秘密結社であった、というべきか。
辛亥革命は、一名「洪門」革命といわれるほど哥老会などの秘密結社の力が大きくものをいった。そして中共党員にも洪門会の影響が強いのである。
こうした側面からシナ歴史を読み取ることが肝要である。
蔡元培が、国民党指導部から距離を置いたのも、杜月笙が牛耳る新興裏社会である青幇が蒋介石と密着な関係を結んだため、洪門会(紅幇)系である蔡としてはそれを忌避したとも考えられる。
しかも、89年の天安門事件への洪門会の関与は事実であろう。そしてこの洪門会本部は米国にあるのだ。
古来から現在まで、時の政権を倒すにあたって威力を発揮したのは秘密社会であった。それについては、わたしの『シナの変容』シリーズで考察を試みたのだが今は中断している。
もし中共を党の内外から倒す勢力があらわれるとしたら、洪門会の可能性が高い、ととりあえず結論だけを述べてしまうのである。
その時に、中共および国民党ともに受けがいい蔡元培はシンボルとしてのうってつけの人物であろう。左右翼を問わず愛国者こそがけっきょくは国のためになるという教訓でもあろう。