Leb wohl, Frau Welt(さらば、世界さん!) |
ネット・ゲリラさんのブログを見ていたら「頭脳警察」の歌がアップされていて魂消た。
「頭脳警察」についてご存じない方は、まあググッてみてくんろ。
そのエントリーのコメントに「さようなら世界夫人よ」について言及された方がいて、わたしの記憶の隅をはげしくキックした。
その歌はわたしが若きころよく聴いたものだが、くだんのコメンターは、
「リーマン・ブラザーズが潰れた日に、小沢一郎の秘書が逮捕された日に、何度も繰り返し脳内再生しました。」と書かれている。
わたしの最近の思考の混乱を解きほぐす一瞬だった。
そうなのだ舞台は大きく一回りしてまたここへ帰ってきたようだ。
以下に歌詞を
世界はがらくたの中に横たわり
かつてはとても愛していたのに
今 僕等にとって死神はもはや
それほど恐ろしくはないさ
さようなら世界夫人よ さあまた
若くつやつやと身を飾れ
僕等は君の泣き声と君の笑い声には
もう飽きた
世界は僕等に愛と涙を
絶えまなく与え続けてくれた
でも僕等は君の魔法には
もう夢など持っちゃいない
さようなら世界夫人よ さあまた
若くつやつやと身を飾れ
僕等は君の泣き声と君の笑い声には
もう飽きた
(『さようなら世界夫人よ』)
この歌詞は当時も話題になったのだがヘルマンヘッセの詩を基にしている。ついでにその原詩もあげておこう。
Leb wohl, Frau Welt
Es liegt die Welt in Scherben
Einst liebten wir sie sehr,
Nun hat für uns das Sterben
Nicht viele Schrecken mehr.
Man soll die Welt nicht schmähen,
Sie ist so bunt und wild,
Uralte Zauber wehen
Noch immer um ihr Bild.
Wir wollen dankbar scheiden
Aus ihrem großen Spiel;
Sie gab uns Lust und Leiden,
Sie gab uns Liebe viel.
Leb wohl du Welt, und schmücke
Dich wieder jung und glatt,
Wir sind von deinem Glücke
Und deinem Jammer satt.
(Hermann Hesse)
Leb wohl!とは直訳すれば「良く生きよ」という意である。最終的な告別時に用いられる。
Frau Weltとは同様に直訳すれば「世界さん」となる。ドイツ語で世界は女性名詞でDie Weltであるから、「さん」づけの場合はMsにあたるFrauを冠してFrau Weltとなる。まあ「世界夫人」でも誤りではない。
原詩では戦争に破壊され疲弊した「世界夫人」に対して「さらば」といい、再生を願うという含意であろう。またそれはナチスに対抗していた詩人の祖国ドイツへの告別でもあったのだ。
ドイツ語素人のわたしが訳すのもおこがましいので、どうか訳はこれもググッてみてくんろ。
しかし「頭脳警察」が当時のいわゆる「新左翼」学生たちに支持された時、その文脈は、戦争を生み出す資本主義旧体制を打倒せよ、と読み込まれていたはずだ。
さらにしかし今現代においてその「頭脳警察」パンタの歌詞はよく読むと、あるいは聴くと原詩の意をよくつかんでいてしかもポエジーにあふれている。
それは実は旺文社文庫刊「ヘッセ詩集」(昭和43年)所載の、植村敏夫訳を下敷きにしていたらしい。
またこの歌がかって聴衆につよく訴えたのはそのポエジーであった。いつも言うように「ポエジーこそブンガクすなわち人間の表現活動の核心である。」
言葉にしがたい怒りや不安の発露や解消をポエジーが行うのだ。
つい余談になった。
さて、いまや世界金融資本はあらたな混乱と戦争を世界にもたらそうとしているかのごとき気配である。
舞台が一回りして云々はその意味である。
右も左もどうでもいい、世界を思うが侭にあやつろうとする一部のものたちに最終的なLeb wohl!を告げるときが近いことを祈るばかりだ。