おいちゃんの薦める、今年の秋に聴く音楽 |
夏の間、太陽と風と水にさそわれて外へ外へ開いていた感覚がふたたび内面へともどってくる時候となりました。みなさまいかがお過ごしですか?
こちらではもう紅葉が始まりました。8月の冷夏から回復することなく夏が逝って
もう完全な秋の気配。また音楽に慰められる季節となりました。
とくに今年の秋とかぎったわけではありませんが、去年のいまごろ「おいちゃんの薦める、秋に聴く音楽」というエントリーをあげたものでそれとの差異化をはかる、という意味だけの今回のタイトルです。
さて今回お薦めするのは、TempleさんやIzayaizayaさん、またNihonhanihonさんとのやりとりで思い出し再聴してみてやはりよいと感じたグスタフ・マーラー(Gustav Mahler)の『大地の歌』(Das Lied Von Der Erde)です。
これはマーラーの第九番目のシンフォニーですが、ベートーベンが九曲の交響楽しか完成できなかったことから、あえて「9」の字をさけ『大地の歌』と名づけたそうです。しかし後世はマーラーの第十番目の交響曲を『第九』として、この『大地の歌』を数に入れませんでした。結局はベートーベン同様九曲の交響楽を残したことになります。
しかしこの曲も立派な交響楽、しかも題名からも知れるとおり歌つきの交響曲です。
他のマーラー作品と同様、この曲にもマーラーの死への畏れ(と多分憧れ)が満ち満ちています。しかも李白や孟浩然のシナ詩から借用したイメージの歌詞がいっそうその想念を強調しています。
楽器の使用もわざわざシナ風の味をだすよう工夫しています。これはマーラーがシナの詩からインスパイアされて作った曲であることが明白です。
曲名を見てみましょう。
1.大地の悲しみをうたう酒盛りの歌(Das Trinklied vom Jammer der Erde)
2.秋の孤独(Der Einsame in Herbst)
3.青春について(Von der Jugend)
4.美について(Von der Schönheit)
5.春に陶酔する者(Der Trunkene im Frühling)
6.別れ(Der Abschied)
すべてつかの間の人生のはかなさを嘆くものばかり。特に1)、2)、6)はもしあなたがデプレッションの方なら聴かないほうが賢明でしょう。死の誘惑に負けてしまうかも知れないからです。
全体の半分の長さを占める最後の曲6)がこの曲全体の中心部であることもちろんです。
遠くから聞こえる鐘の音。シナの横笛を思わせるフルートの寂寞とした響き。アルトが生に別れを告げて陰々と切々と歌います。
Du, mein Freund, mir war auf dieser Welt das Glück nicht hold!
友よ、この世ではわたしには幸福はなかった
Wohin ich gehe? Ich gehe, ich wandre in die Berge.
いずこに行こう?山々のほうへゆかむ。
Ich suche Ruhe für mein einsam Herz.
わたしの孤独なこころの安息をもとめて
(中略)
Die liebe Erde allüberall blüht auf im Lenz und grünt aufs neu!
愛する大地は春にはいたるところ花開き緑におおわれる
Allüberall und ewig blauen licht die Fernen!
いたるところそして永遠に遠くまで青く輝く
Ewig...ewig...
永遠に・・・永遠に・・・
この「永遠に」を繰り返しながら、永遠に季節をくりかえす世界から去っていく孤独な魂がますます哀れで身につまされるではありませんか。
Templeさんはフィッシャアー・デイースカウ(Fischer-Dieskau)をフィーチャーしたレオナルド・バーンシュタイン(Leonard Bernstein)がウィンナー・フィルハーモニー・オーケストラを指揮したデッカ盤がおすきとのことです。
これもフィッシャアー・デイースカウのバリトンが聴き所ですし、また67年という比較的古い録音ですがウィーン・フィルらしいこってりとした厚い音作りで好ましいものです。
しかしわたしの好みは同じバーンシュタインがイスラエル・フィルハーモニー・オーケストラを指揮したCBS盤です。録音は74年。歌手はレネ・コロ(René Kollo)のテノールとクリスタ・ルードヴィッヒ(Christa Ludwig)のアルトです。彼女の声の質がこの第6曲にはふさわしいように思われるからです。
稀有な指揮者でもあったマーラーから直接に指導をうけたブルーノ・ワルター(Bruno Walter)の録音も有名ですし聴く価値のあるものです。私が最初に購入したのも彼のモノ録音のLPでした。しかし録音がいかんせん古く現代のハイファイセットで聴くにはいささかふさわしくなく演奏の速度が若干速すぎて曲想を裏切っているようにも感ぜられるのです。
マーラー、ワルターともにユダヤ人、バーンシュタインもまたユダヤ人でした。ワルター、バーンシュタインともに亡きあとマーラーを演奏するに長けた指揮者はいつ現れるのでしょうか?いまのところバーンシュタインが最高のマーラー指揮者といってよいと思います。